中東での安倍総理の演説の中で、どこに問題があったのかを、和文と英文の双方で検証してみた。

去る1月17日、安倍総理大臣は、訪問先のエジプトで中東政策について演説をした。

 

その全文は、こちらをご覧ください。

その直後の20日に、「イスラム国」と名乗る組織によって、日本人2人の人質の映像が公開され、72時間以内に身代金2億ドルを払わなければ殺害すると警告された。

その後、人質の一人が殺害されるという最悪の事態にまで発展した今回の事件だが、原因は、もちろん安倍総理による17日の演説だけではないが、今回、この演説のどの部分に問題があったのかを検証してみた。

私が問題だったと考える部分の、まずは日本語での表記は以下の通りだ。

 イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。 

読んで分かる通り、イスラム国に対する敵対意識がうかがえる。

 

とくに、「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束」という部分は、イスラム国を大いに刺激したであろうと思われる。

 

ただ、政府はその後の会見で、「あくまでも非軍事的・人道的な支援」と弁明している。たしかに、「地道な人材開発、インフラ整備を含め」とあることから、そのように読めなくもないが、この点、英文ではどうなっていたのか。

 We are going to provide assistance for refugees and displaced persons from Iraq and Syria.We are also going to support Turkey and Lebanon. All that, we shall do to help curb the threat ISIL poses. I will pledge assistance of a total of about 200 million U.S. dollars for those countries contending with ISIL, to help build their human capacities, infrastructure, and so on.

イラク、シリアの難民や避難民、トルコ、レバノンへの支援約束を表明した後、

 

"All that, we shall do to help curb the threat ISIL poses."

 

となっており、先の日本語訳では分かりづらいが、"All that" という部分が強調されて文頭に出ているため、「その支援はすべて、ISILがもたらす脅威を食い止めるのに役立つためにすることだ」という直訳になっていて、支援の目的はすべて対イスラム国政策なのだというニュアンスが、日本語よりも露骨に表れていることが分かる。

さらに、その後、総額で約2億ドルの支援を約束する相手国として、

 

"for those countries contending with ISIL"

 

としており、イスラム国と闘っている国に強く限定されている。

 

ちなみに、その後の、

 

"to help build their human capacities, infrastructure, and so on."

 

という文言からも、人材開発やインフラ整備等も、イスラム国と闘っている国に強く限定されていることがよくわかる。

「人道的な支援」というのであれば、本来は、敵味方の区別なくなされるのが筋かと思われるところ、その一方のみに強く限定して支援をすることは、たとえそれが非軍事的なものであっても、相手側からすれば、いわゆる「幇助」となり、「宣戦布告」と評されてもまったく文句は言えまい。

イスラム国のやったことはもちろん許されないが、中東の紛争は、歴史的には欧米やイスラエルの行動にも非がある上に、宗教もからむ複雑な問題だ。だからこそ、歴代の日本政府は極力中東問題への介入を避け、中東諸国と平和的関係を維持してこられたという経緯がある。

 

そこへ、憲法改正・集団的自衛権を標榜する日本政府が、露骨に一方側への「幇助」という姿勢を打ち出せば、紛争に巻き込まれることは火を見るよりも明らかだったはずだ。しかも、日本人が人質となっている最中だったことを考えると、今回の安倍政権や外務省の対応は、まさに無思慮の極みというべく、国家と国民を重大な危機にさらし、取り返しのつかないほど国益を損ねたといえよう。

日本が海外に対して宣戦布告をしたのは、1941年の東条英機内閣以来のことだ。安倍内閣はその名を歴史に大きく残すだろう。

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コメント: 13
  • #1

    oks_kan2014@yahoo.co.jp (日曜日, 01 2月 2015 10:19)


    阿部首相の行動、発言内容の愚かさがよくわかりました。

  • #2

    easakuseidaiko (日曜日, 01 2月 2015 20:49)

    >oks_kan2014@yahoo.co.jpさん

    コメントありがとうございます。このまま安倍政権の暴走を許してしまうと、日本は間違いなく戦場になると思います。とにかく国民一人一人が声を上げないと取り返しのつかないことになるでしょう。

  • #3

    中河三男 (月曜日, 02 2月 2015 09:23)

    今回のイスラム国の蛮行は許すことはできないということに異論はない。中東に介入すべきでなかったという趣旨は分かるような気がしますが、一方で「イスラム国」に逆らったらよいことないよという脅しに負けることになるのではないか。今回の蛮行は、全世界に対する見せしめ的脅しになっていることはたしかだ。憲法9条は国際紛争解決の手段として軍事力は使わないことになっている。今回は軍事力は発動していないし、難民支援だし。しかし・・・・何もしないのが正しい選択だったのかねー

  • #4

    easakuseidaiko (月曜日, 02 2月 2015 20:33)

    >中河三男さん
    コメントありがとうございます。そうですね。ご指摘のように難しい問題はあるかと思います。時間があったら、この点についてもう少し突っ込んだ自論を記事にしてみたいと考えています。

  • #5

    鳩貝 秀一 (火曜日, 03 2月 2015 08:51)

    そうなっても構わないと言う未必の故意。なって欲しいらとまでは思って無いでしょうが。

  • #6

    easakuseidaiko (火曜日, 03 2月 2015 22:10)

    >鳩貝秀一さん
    そのような意見の方も多いみたいですね。中には、安倍総理はそうなることを積極的に望んでいるとの意見もあるようです。でも、私は違うような気がします。彼は単に物事の因果関係が推測できない、つまり、ア〇マが悪いのだと思います。^^;

  • #7

    nichole (水曜日, 04 2月 2015 17:47)

    中東演説では総額25億ドルを中東に支援するようですね
    しかしこの文章は25億ドルのうちの2億ドルというニュアンスがありません
    10分の1にも満たないのですが、そういうところを踏まえてかかないとただの揚げ足取りですよ
    また、英語を引き合いに出したのは良いアピールになってますが、英訳でも述べてるように、食い止めるのは「脅威」ですね
    それと、「闘う」と訳してはいますが、「戦う」とは意味が違うことも考慮に入れていません
    取り敢えず、1番この文章がくだらない原因となっているのが、中東への支援はほぼイスラム国と闘っている国へのものなんですよ〜っていうのが中東演説の内容、という風に取れることです
    全文を載せてなかったら、最高の揚げ足取りになってたと思います

    とまあ自分の意見はこんなもんですが、全文見たかったのに不馴れでなかなか行き着かなかったので最初のやつはとても有難かったですm(_ _)m

  • #8

    easakuseidaiko (木曜日, 05 2月 2015 02:18)

    >nicholeさん
    コメントありがとうございます。また、少しでもお役に立てて光栄です。今回の私の記事が単なる「揚げ足取り」か否かについては、読まれた方の読解力に委ねたいと思います。

  • #9

    on (金曜日, 06 2月 2015 02:08)

    相手はテロリストです。
    もし「支援の目的はすべて対イスラム国政策なのだ」と名言しなかったとしても、今度は「このタイミングで敵対視している国への援助も幇助と同様である」と言った言いがかりも十分に考えられます。
    基本的に言いがかりなのです。しかも、日本語の文章を読んでいては基本的に言いがかりを回避しようという方針は十分に見られているのではないでしょうか。

    英文にした際の問題点と、ISILにどう認識されたかについては下記内容に概ね同意しています。
    http://chutoislam.blog.fc2.com/blog-entry-270.html

    個人的にもカイロでの演説を読みましたが、強く中庸を意識していることも見受けられ「無思慮の極み」とは思えませんでした。

  • #10

    某国立大学生 (土曜日, 07 2月 2015 04:26)

    thoseとtheirに何故日本語よりも強いニュアンスがでているのかがよくわからなかったです。
    特にthoseは後ろの現在分詞の先行詞の為のただの形式的な言葉のように感じられます。
    またtheirに関しては原文をそのまま訳しただけで特に何のニュアンスも付されていないような気がするのですがどうでしょうか。

  • #11

    某国立大学生 (土曜日, 07 2月 2015 04:30)

    あと書き忘れましたが、

    ”「人道的な支援」というのであれば、本来は、敵味方の区別なくなされるのが筋かと思われるところ”

    こんな支援はおそらくどの時代のどの国にも存在
    しないのでは。。。

  • #12

    easakuseidaiko (土曜日, 07 2月 2015 10:01)

    >onさん
    コメントありがとうございます。とても興味深いサイトもご紹介いいただき感謝します。

  • #13

    easakuseidaiko (土曜日, 07 2月 2015 10:22)

    >某国立大学生さん

    記事に関心を寄せていただきありがとうございます。

    for those countries contending with ISIL, to help build their human capacities…の部分について、某国立大学生さんのご指摘は、もちろんその通りです。私が言いたかったのは、「日本語よりも英語の方が限定が強い」ではなく「限定されていることが日本語よりも英語の方がわかりやすい」ということです。

    >こんな支援はおそらくどの時代のどの国にも存在しない

    19世紀に設立された赤十字社は、「敵・味方の区別なく人道的支援をすること」を目的として、世界各国で活動しています。イスラム国支配地域においても、赤新月社が同様の活動をしてきました。ただ、現在では紛争が激化しているため、どうなっているのか分かりませんが。

    蛇足ですが、自民党の憲法改正案を一度チェックしてみてください。前文と9条の3において、「国民による国防の義務」が規定されています。ここから「徴兵制」が実現される得ることはもはや明白で、そうなると、某国立大学生さんのような若い方々が真っ先にイスラム国へ送られてしまいます。今声を上げないと大変なことになってしまいますよ。